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天と地と 特別編

1990年、角川春樹事務所、海音寺潮五郎原作、鎌田敏夫+吉原勲脚本、角川春樹監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

自分を亡き者にしようと兵を挙げて向ってきた兄、長尾晴景を討ち、越後の守護代に任命された長尾景虎(榎木孝明)は、琵琶島藩主、宇佐美定行(渡瀬恒彦)を父のように信頼していた。

そんな景虎は、狩りに出たある日、森の中で美しい笛の音を奏でる娘の姿を目にする。

後日、彼女こそ、宇佐美定行の娘、乃美(浅野温子)であったことを景虎は知る。

乃美は、いつまでも独り身でいる景虎にその理由を尋ねるのだが、景虎は、神仏に一切の煩悩を断ち切る誓いをしたからだと答える。

そんな景虎を置いて、乃美は独り嫁いで行く。

一方、その頃、甲斐の国の武田晴信(津川雅彦)が、刻々と領土の拡大を狙っていた。

天久17年、そんな武田晴信は、信濃へ兵を向わせるが、景虎の配下だった者にも、その武田側に寝返る裏切者が出てきはじめる。

景虎は、非情な戦いの中で、自らの心の弱さを自覚し、秘かに国を出奔しようとする…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

製作費53億の巨費を投じて製作された戦乱絵巻。

東映が配給した作品としては、今でも配給収入の最高記録を保持している作品でもある。

「赤と黒とのエクスタシー」というキャッチコピーでお馴染みとなった、ものすごい人数のエキストラを使用した後半の川中島での決戦スペクタクルシーンは、確かに見ごたえ十分である。

しかし、それ以外のドラマの部分は退屈というしかない。
往々にして「時代劇大作=冗漫、退屈」になりがちなのだが、残念ながら、本作も、その例にもれなかったようだ。

おそらく、黒澤明の「乱」辺りを意識しているのではないかと思われるが、「乱」は、黒澤が若い頃から培ってきた独特の作家性の到達点として、意図的に娯楽性を排除して、ああいう作風になったのだと思う。

角川監督に、それほどの深い作家意識があったのかどうか…。

娯楽映画としては冗漫、作家映画とすると、さほど奥行きが感じられない、中途半端な印象の作品というしかない。

前半部は、美しい情景の積み重ねで、日本画を見るような美術的な魅力はあるのだが、人物描写まで同じように様式的というか、表面的な演出法で描かれているため、各々の人物像に魅力を感じるまでには至らない弱さがある。

たくさんの人物が登場する群集劇でもあるので致し方ない部分もあるが、景虎と乃美という、互いに心の中では惹かれ合いながらも、結ばれぬ運命に身を委ねなければならない中心人物の魅力と各々の心の葛藤が、今一つ引出されていないような気がするのだ。

特に、乃美の方は、正直、画面上魅力が感じられない。

さらに、宇佐美定行と景虎との心理的駆け引きなどにしても、何となくはわかるのだが…という程度の印象で、強く心に刻まれるというほどではない。

そういう人物描写が弱いので、後半のスペクタクルも、単なる「見世物」以上の感動を引き起こさないのだ。

特に、156分という特別編は、全体的な長さに対して物語の起伏に乏しく、観ていてイライラさせられる。